「家族滞在」から「育成就労」へ
育成就労制度による新たなキャリアルートは現実的か?

2026年03月26日(土)に開催された国際業務研究会 実務家向け研修会「育成就労制度の概要等について」の内容を参考に、本記事を執筆する。
目次:
はじめに
1.制度趣旨の転換(技能実習との違い)
2.育成就労外国人の要件
3.「入国前後の講習」について
前述までのまとめ
補足:家族滞在者を人材として活用するメリット
結論
はじめに
育成就労制度は、「海外から人材を呼び寄せる制度」として検討されてきた。
しかし、制度内容を精査すると、必ずしも国外からの人材受入れに限定されるものではなく、すでに日本国内に在留する外国人を労働力として育成・活用する制度としても捉えることができる。
1.制度趣旨の転換(技能実習との違い)
制度趣旨の違いは、以下のとおりである。
【育成就労の制度趣旨】
日本国内における人材育成および人材確保
【技能実習の制度趣旨】
開発途上国等への技能移転
したがって、技能実習制度においては、「海外から人材を受け入れ、技能習得後に帰国させる」ことが前提とされており、実習修了後の帰国が制度の基本構造に組み込まれている。
2019年に特定技能制度が創設された後も、この基本的な枠組み自体は維持されている。
一方、育成就労制度は、日本国内における人材の育成および確保を目的としていることから、在留期間の終了後には、要件を満たす者を特定技能へ移行させることが想定されている。
このように制度趣旨を踏まえると、育成就労制度は国外からの人材受入れを前提とする枠組みとして理解することも可能であるが、その本質は国内における人材育成・確保にある。
したがって、すでに日本国内に在留する外国人についても、本制度の対象として育成し、人材として活用することは制度趣旨に反しないと考えられる。
2.育成就労外国人の要件
育成就労外国人の要件は、以下の通り。
① 18歳以上であること。
② 健康状態が良好であること。★
③ 素行が善良であること(監理型の場合は送出機関が確認)★
④ 退去強制令書の円滑な執行に協力するとして法務大臣が告示で定める外国政府等が発行した旅券を所持していること。★
⑤ 特定技能外国人であった経験がある者にあっては、特定技能外国人として従事していた業務の内容に照らして、育成就労を行わせることが相当と認められる者であること。
⑥ (単独型の場合)育成就労実施者の外国にある事業所において1年以上業務に従事している常勤の職員であり、かつ、当該事業所から転勤し、又は出向する者であること。★
⑦ (監理型の場合)本国の公的機関から推薦を受けた者であること。
⑧ (監理型の場合)取引に密接な関係を有する外国の公私の機関(※)の外国にある事業所の職員である場合にあっては、当該外国にある事業所において業務に従事していた期間が1年以上であること。★
※※ 受入機関と引き続き1年以上の国際取引の実績がある機関又は過去1年間に10億円以上の国際取引の実績がある機関
赤字★は、技能実習から変更・追加された要件です。
(補足)★:前職要件・復職要件は廃止
要件⑦における本国公的機関の推薦は、送出国側による人材選抜および管理を制度に組み込むためのものである。
このような制度設計は、国外からの人材受入れを前提とするものであり、すでに日本国内に在留している家族滞在者にとっては大きなハードルとなる。
なお、筆者が入管庁政策担当者の講義において、すでに日本国内に在留する家族滞在の外国人が育成就労制度を活用してスキルアップすることの可否について質問したところ、明確な否定は示されず、「申請してみてください」との回答があった。
このやり取りからも、制度趣旨と要件構造との間には一定の解釈の余地が残されており、今後の運用次第では国内在留者の活用が検討される可能性もあると考えられる。
3.「入国前後の講習」について
「入国前後の講習」については、技能実習制度の枠組みをベースにしつつも、
育成就労制度では「日本語能力の担保」がより厳格かつ具体的に組み込まれている。
1. 講習時間と短縮の仕組み(比較表)
基本的な考え方は「入国前にある程度勉強していれば、入国後の講習を半分に短縮できる」という点で共通していますが、育成就労では「日本語能力試験の合格有無」が時間に直結します。
| 項目 | 技能実習(1号) | 育成就労(新制度) |
| 原則の時間数 | 第1号実習予定時間の1/6以上(約320時間相当) | 320時間以上(A1未合格の場合) |
| 短縮後の時間数 | 第1号実習予定時間の1/12以上(約160時間相当) | 160時間以上(入国前160h受講時) |
| 日本語合格者特例 | 明確な時間短縮規定なし(※1) | A1合格なら220時間(入国前講習ありなら110h) |
| 講習の内容 | 日本語、生活一般知識、法的保護、技能修得知識 | 技能実習とほぼ同様(※2) |
(※1)技能実習では日本語能力による一律の免除規定はありませんでしたが、
育成就労では「A1合格」で220時間以上>「A1入国前110時間以上講習済」でさらに短縮され110時間以上という明確な段階設定されました。
(※2)法的保護講習(外部講師による実施)等の基本的な構成は維持される見通しです。
2.育成就労で追加された「認定日本語教育機関」の要件
ここが実務上もっとも注意すべき点です。
- 日本語講習の義務化:
育成就労では、A1相当の試験に合格していない場合、入国後講習の中で「認定日本語教育機関」による講習(100時間以上)を受けることが必須となっている。
A1相当の試験に合格している場合、必ずしも認定日本語教育機関の講習を受講する必要がない。 - 特定技能への接続: 3年後の特定技能1号移行を見据え、入国後も「A2相当」を目指すための講習を履修できるよう、企業が措置を講じることが求められている。
なお、A2相当の試験に合格している者については、講習の履修は不要。
3. 入国前講習の「期限」の厳格化
技能実習でも「過去6ヶ月以内」という基準がありましたが、育成就労でもこれが踏襲されます。入国が遅れた場合に「入国前講習」として認められなくなり、入国後の短縮が受けられなくなるリスクには引き続き注意が必要です
前述までのまとめ
講習制度の内容を踏まえると、A1相当からA2相当の日本語能力を有し、すでに日本社会に適応している家族滞在の在留者にとっては、育成就労制度における講習内容が必ずしも実態に適合するとはいえない場面も想定される。
特に、新規入国者を前提とした講習体系を一律に適用することについては、既存の生活基盤や経験を有する者に対しては、一定の非効率性が生じる可能性がある。
このような点を踏まえると、国内在留者の労働力活用という観点からは、育成就労制度の活用のみならず、資格外活動の時間制限の在り方を含めた制度全体の見直しについても、検討の余地があると考えられる。
補足:家族滞在者を人材として活用するメリット
「家族滞在」により日本国内に在留している外国人については、制度上は就労が制限されているものの、労働力として活用することには以下のようなメリットがある。
1.すでに日本社会に適応している
- 生活習慣・マナーへの理解がある
- 交通・行政手続等に一定の知識がある
→→新規入国者に比べ、初期適応コストが低い
2.生活基盤が安定している
- 家族と同居しているケースが多い
- 住居・生活環境が確保されている
→→ 離職・失踪リスクの低減
3.受入コストの抑制
- 渡航費不要
- 入国前講習の負担なし
→→企業側のコスト負担を軽減できる可能性
4.地域定着の可能性が高い
- 家族単位で生活している
- 長期在留の意向が強いケースが多い
→→ 地域社会への定着・人材の継続確保につながる
5.労働市場のミスマッチ解消
- すでに国内に存在する潜在労働力
- 就労意欲がありながら機会が限定されている層
→→新規受入れに依存しない人材確保が可能
結論
秩序ある共生社会の実現という観点からは、就労を伴う外国人の受入れについて一定の管理枠組みの下で運用することが重要であり、その点において、育成就労制度は、政府にとって運用上の管理が比較的容易な仕組みであるといえる。
一方で、すでに日本国内に在留している家族滞在の外国人については、現行の制度要件との関係から育成就労制度の活用が必ずしも容易ではない。
このため、国内在留者の人材活用を図る観点からは、対象者の実態に応じた講習要件の柔軟化や手続の簡素化等、一定の緩和措置について検討の余地があると考えられる。
また、本制度が国内人材の活用をも視野に入れるものであるならば、制度趣旨と要件構造の整合を図る観点から、今後の制度運用の在り方が重要な検討課題となる。


